北斎の三女、葛飾応為栄(阿栄、應栄)光と影にこだわった浮世絵師


1.「夜桜美人図または春夜美人図」
 2.「月下砧打ち美人図」
葛飾応為とは、現存する作品は非常に少ない。応為作らしいと推定を含めても十数点である。応為は雅号 生没年不詳
《葛飾応為作品 目次》
1.『夜桜美人図』……誇張した明暗法と細密描写に優れた肉筆画の「夜桜美人図また春夜美人図(しゅんやびじんず)」(メナード美術館所蔵)、題材は元禄時代に活躍した女流歌人・秋色女を描いた作品だと考えられる。
また、この作品には類似した浮世絵がある。歌川国貞(三代豊国)の「月の夜忍逢ふ夜ー灯篭」である。恋人の文を灯篭の光で読む娘の姿を描いた、葛飾応為ほど夜の暗闇を意識したものでなく、灯籠の灯を意識している。通常の浮世絵に光が当たった部分が明るくなるという構成である。比べてみると応為の画が圧倒的な情緒溢れる浮世絵である。
   「月の夜忍逢ふ夜ー灯篭」絵・香蝶楼国貞(三代豊国)極印・年代不明 版元・今井屋宗兵衛(地元草紙問屋)
「月の陰忍逢夜」(つきのかげしのびあうよる)シリーズを見る。 「江戸の奇想」を見る

2.『月下砧ち打美人図』……満月に照らされ女性が砧を打つ場面は、中国の白居易の詩「聞夜砧」に由来し、「夫を思いながら砧を打つ妻の情愛を象徴的に表す」と言う図「月下砧ち打美人図(げっかきぬたうちびじんず)」(東京国立博物館所蔵)。

3.『吉原格子先図』……吉原遊廓の妓楼・和泉屋で、往来に面して花魁たちが室内に居並ぶ「張見世」の様子を描く「吉原格子先図(よしわらこうしさきのず)」(太田記念美術館)。制作年代は不明である、

4.『三曲合奏図』……中央の遊女が琴、右側の芸者が三味線、左側の町娘が胡弓(尺八)をひく。「三曲合奏図(さんきょくがっそうず)」(ボストン美術館所蔵)

5.『関羽割臂図』……右腕に毒矢を受けた関羽を中国の名医・華陀が小刀で骨に付いた毒を削り取って治療する有名な場面。「関羽割臂図」(アメリカクリーブランド博物館所蔵)、画には応為が使用したと思われる落款「應為栄女筆」印と「葛しか」白文方印がある。縦位置の難しい構図を上手くこなしている。

6.『菊図』と『百合図』……信州小布施に残された。唯一の絵画作品である『百合図』と『菊図』、どちらも応為らしく暖かい暖色系の彩色である。

7.『葛飾応為を描いた女流作家たち』……「花篝 小説 日本女流画人伝」澤田ふじ子著、「眩 くらら」朝井まかて著、「北斉と応為」上下 キャサリン・ゴヴィエ著・モーゲンスタン陽子訳

8.「葛飾応為研究の第一人者 久保田一洋」……「北斎娘・応為栄女論―北斎肉筆画の代作に関する一考察」久保田一洋筆『浮世絵芸術』117号 国際浮世絵学会編集委員会編 国際浮世絵学会刊の研究成果を本にしたのが『北斉娘 応為栄女集』である。研究書なのでかなり難しい。図版も豊富で、その解説も詳しく、応為の小説などの読書時に手元に置く辞書のように使いたい。

9.「手踊図」所在不明 『酔余美人図』(財)氏家浮世絵コレクション所蔵
……どちらにも北斉との共同作業を疑わせる作品である。顔や手の仕草は応為の細やかな描写だと思わせる。

10.「朝顔美人図」ロサンゼルス美術館蔵……北斉娘辰女とは応為のことか、諸伝記録に辰女の記録はない。作品が発見されたのが昭和44年発刊された『在外秘宝 肉筆浮世絵』学習研究社である。落款などの癖などから栄女(応為)ではないかと思われている。

11.木版画で応為作と認められているのは、弘化4年(1847年)刊行の絵本『絵入日用女重宝句』(高井蘭山作)と嘉永元年(1848年)刊行の『煎茶手引の種』(山本山主人作)所収の図のみである。

12.『蝶々二美人図』……秋田氏が推測されるように、『画中の団扇を持つ美人、二羽の蝶は他作品同様「胡蝶の夢」を意識して描いた可能性は高いと思われる。』(原色浮世絵大百科事典 第四巻 画題)昭和56年 大修館書店)

13.シーボルトがオランダに持ち帰った北斉と応為の水彩画.    p2

14.ユングの分析心理学で「吉原格子先図」を考察する。
   2.ユングの分析心理学で「吉原格子先図」を考察する。

70歳近くまで生きたとされる彼女の作品数が少なすぎることから、「北斎作」とされる作品の中には、実際は応為の作、もしくは北斎との共作が相当数あると考えられている。特に、北斎80歳以降の落款をもつ肉筆画には、彩色が若々しく、精緻に過ぎる作品がしばしば見られる、こうした作品を応為の代筆とする意見もある。また、北斎筆とされる春画「絵本ついの雛形」を、応為の筆とする説もある。
『特に美人画に優れていた』(渓齊英泉)、北斎の肉筆美人画の代作をしたともいわれている。また、北斎の春画においても彩色を担当したとされる。『北斎は美人画にかけては応為には敵わない。彼女は妙々と描き、よく画法に適っている』と語ったと伝えられている。(ウィキペディア)

(注・款記)書画が完成したとき,それが自作であることを示すため,作品に姓名,字号,年月,識語(揮毫の場所,状況,動機等の),詩文などを記すこと。(世界大百科事典)