灯籠の灯りで短冊を描く娘、深い闇が姿を包む幻想の世界

「夜桜美人図」印章なし 絹本 着色 一幅 88.8×34.5p 
メナード美術館蔵

「夜桜美人図また春夜美人図」部分
 

背景の星空だが、実際の星の配置を描いたものではない。木枝のシルエットを生かすよう効果的に木枝を囲んで描かれている。現代と違い、江戸の夜空は星で溢れていた。絵のようにまばらではなかった、灯籠の灯を生かすため、夜空は暗くした。(個人的見解)
 
『夜桜美人図』……誇張した明暗法と細密描写に優れた肉筆画の「夜桜美人図また春夜美人図(しゅんやびじんず)」(メナード美術館所蔵)、題材は元禄時代に活躍した女流歌人・秋色女を描いた作品だと考えられる。この光景は「秋田達也氏により、元禄期に実在した歌人・秋色(しゅうしき)の姿を描いたものであると考証されている」。

また、この作品には類似した浮世絵がある。歌川国貞(三代豊国)の「月の夜忍逢ふ夜ー灯篭」である。恋人の文を灯篭の光で読む娘の姿を描いた、葛飾応為ほど夜の暗闇を意識したものでなく、灯籠の灯を意識している。通常の浮世絵に光が当たった部分が明るくなるという構成である。比べてみると応為の画が圧倒的な情緒溢れる浮世絵である。江戸浮世絵の世界でこれほど濃密な夜の闇を描いた浮世絵師は応為だけである。

「月の夜忍逢ふ夜ー灯篭」絵・香蝶楼国貞(三代豊国)極印・年代不明 版元・今井屋宗兵衛(地元草紙問屋)
「月の陰忍逢夜」(つきのかげしのびあうよる)シリーズを見る。
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