葛飾応為栄(阿栄、應栄)光と影にこだわった浮世絵師

「吉原格子先之図」款記 三つの提灯に「應」「為」「榮」と書き、印章はない 紙本 着色 一幅 26.3×39.8p 太田記念美術館蔵

ただ一人の花魁の顔が何を語るのか。

葛飾応為の代表作である。光と影の画法に自信を持った作品である。
応為は昔ながらの吉原図にしたくなかったらしい。
この絵のポイントの一つである格子の中に座る花魁は、見たままのシルエットではなく、応為の計算されたイメージの構図である。花魁は二つの提灯により、顔もやや明るく見えるはずである。室内の光り輝く部屋と反対に、応為は室内の光による背の輪郭も無視して、花魁は全くのシルエット(陰)とした。室内の明るい世界にいる影である花魁世界を暗示しているのか。人間の影の意識が具現したものか。

『「新吉原仮宅」図を安政2年の火災時の仮託図とし、そこに応為の着想の源を求めたとき、本図の制作年代は、早くても安政2年末以降になる。』(注・久保田一洋氏)

朝井まかて氏は、次のように描く『店の内部はあまり巧妙に描き過ぎると俗っぽくなる。遊女は二十人ほどが座っている、その心積もりで画くが、お栄はあえて顔のすべてを見せている遊女をただ一人に絞った。』、『命が見せる束の間の振るわい、光と影に託すのだ。そう、眩々(くらくら)するほどの息吹を描く。』作者の心情がここにある。『眩々(くらら)』(朝井まかて著(株)新潮社)


「三つの提灯に『應』『為』『栄』の文字が応為の落款を示す。
中央の影は応為の強い自我意識を感じる。(分析心理学から見た影)
「影の現象学」河合隼雄著
目次扉に戻る