葛飾北斎が描く「百物語」の化物達、奇想の姿態が面白い
浮世絵
浮世絵

「百物語ーさらやしき」上
 おなじみ歌舞伎で知られた番町皿屋敷、有名なお菊の幽霊である。蛇をイメージしたのだろう蛇の胴体に皿が巻き付いている。皿は蛇の模様のようだ。お菊さんは若い美人が演じるが、北斎は垂れ目のおばさんにしてしまった。反逆の北斎、面目躍如である。東京国立博物館蔵 

「皿屋敷弁財録」下
皿を割った下女が怨霊となる伝説は、播磨(兵庫)、甲州(山梨)、雲集(島根)などにあった。馬場文耕作「皿屋敷弁財録」宝暦8年(1758)からである。その後、「播州皿屋敷」に人気が確立して、同ジャンルが成立した。
2013.12.02更新

「百物語ー笑いはんにゃ」
 国籍不明の般若である、角と牙を持ち幽霊と言うより妖怪か、長野県の伝承と言うが詳細不明、絵の感じでは中国的である。水滸伝的な匂いがする。東京国立博物館蔵
浮世絵
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「百物語ーお岩さん」
 歌舞伎の怪談物では一番知られている「四谷怪談」のお岩さんであろう、ほとんどの作者が、お岩さんを目が潰れ、腫れ上がった顔を描くのに北斎は目を大きく開き後頭部が提灯というユーモラスな絵にしている。東京国立博物館蔵

「百物語ーこはだ小平次」
 江戸の歌舞伎役者である木幡小平次は、売れない役者であった、やっと貰った役が幽霊である。しかし、旅先で妻の密通相手に殺されてしまう。絵は妻と密通相手の所に蚊帳から顔を出したところ。何となくか弱い子供のような幽霊である。山東京伝作「復習奇談安積沼(あかさぬま)」東京国立博物館蔵
 
東京国立博物館


浮世絵
「百物語ーしうねん」
 不思議な絵である。位牌の戒名は北斎の機知か、戒名(ももじい)の上の梵字は女の横顔である。また、卍は日蓮宗の印である。三方に載っているのは何か、何を意味しているのか。北斎は熱心な日蓮宗信奉者である。東京国立博物館蔵
 

百物語について
  落款は「為一」筆である。版元は不明、天保2年から3年頃(1831〜1832)の版行らしい。葛飾北斎の真筆と認定されている。タイトルから100枚を作る予定と見られるが、この5枚以外は確認されていない。売れなかったのだろうか。「富嶽三十六景」を描いた北斎から見ると信じられないだろうが、ウエットのとんだ北斎である。浮世絵師は芸術家ではない、版元から依頼されたり、自分から下絵を持ち込んだり、版元が承認しなければ絵にはならない。売れなければ仕事は来ない。現代の広告業界に似ている、発注者の意図を読み、絵を考え、売れなければならない。構成力が無ければ依頼は来ない。挿絵に描いた化物・怪異から見ると、おどろおどろしさがない、湿気を含んだような背筋が寒くなる、ぞっとする恐ろしさがない、そのあたりが売れなかった原因だろうか。

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