滝沢馬琴の読本『珍説弓張月』の英雄流転譚挿絵 ー波と風

『椿説弓張月』(鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月)文化4年(1807)(国立国会図書館デジタル化資料)
 
俗に『椿説弓張月(ちんせつ ゆみはりづき)』と言われる。鎮西八郎(源為朝)が琉球に渡り琉球王国を建設したという伝説に題材を取った、今で言う英雄流転譚である。文化4年(1807)に『前編』が出た、以後4年を掛け、『後篇』、『続篇』、『拾遺』、『残篇』が出された。全5編・29冊の大シリーズである。滝沢馬琴の出世作であるが、驚くべき葛飾北斎挿絵の奇抜さも、大衆受けする大きな要因になった。以後、二人はコンビを組み次々とヒットをはなった。

中央にある太い柱状は、懐中から立ち上る異界からの柱か、又は船の帆柱か判然としない。船を飲み込もうとする渦巻く海の動きは素晴らしい、海中から飛び出した龍を中心に渦を構成している。波をいくつかに描き分けており、面白いのは左下にある波で、板状に重なる四角い波である、重なる波を北斉は板で表現したのであろうか。


主君源為朝を救うため、迫り来る大波を防ぐために、自決して魂魄となって立ち向かう高間太郎。壁と成り迫る浪の描写が素晴らしい。国立国会図書館デジタル化資料

黒煙と共に空中に飛び上がるのは、烏天狗になり魔王となって戦う崇徳院である。黒煙の描写と枠を突き破る動きが素晴らしい。国立国会図書館デジタル化資料

本

嶋袋で雪の中に休んでいた源為朝に、異界からの猛火が吹き寄せる。馬は盾になり猛火に包まれる、鎧や矢立も火に包まれている。異界からの不思議な火の描写と、ゆっくり流れる時間が恐ろしさを感じさせる。背景は黒一色の雪景色、左に流れる炎は素晴らしい。国立国会図書館デジタル化資料 国立国会図書館へ

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