川瀬巴水の描く池上本門寺は静謐で、彼が到達した透徹な精神世界を表している

川瀬巴水新版画

川瀬巴水(かわせはすい)

川瀬巴水は戦前・戦後と大田区に住み、人生の最期も上池台(旧池上町1127番地)で迎えている。昭和32年(1957)に逝去、享年74才であった。

戦災を免れた五重塔は、池上台地に立つ唯一の高い建造物である。西日が四層と五層を照らしている。全体が影に没する数分前である。すでに地上は影の闇である。人を配せず生活の証しもないのは、池上本門寺の神聖な領域を表しているのであろう。そのことは、下の2枚の版画についても言える。どちらも同じ場所より描かれており、巴水のスケッチする姿を想像させる版画である。 しょうきょうじ
 右下の一枚は戦前の制作、雪の風景は霊仙橋手前より総門までの100メートルばかりを描いている。橋の道路面がふくらみゆるやかな坂になっている。その位置に画面全体を覆う松を配し、松枝に積もる雪が静寂を表している。現在、この松はないが全体の雰囲気は変わらない。川瀬巴水解説
 
「池上本門寺の塔」昭和3年(1928)
版権所有者渡辺庄三郎 拡大表示
川瀬巴水新版画
「池上本門寺之塔」昭和29年(1954)
大田区立郷土博物館蔵 ワタナベ丸印 
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川瀬巴水新版画
「池上之雪」昭和31年(1956)
渡邊版画店 大田区立郷土博物館蔵 
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川瀬巴水新版画
「池上本門寺」昭和6年(1931)
版元渡邊版書店 拡大表示

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