高松藩五代藩主 松平頼恭は殖産興業に勤め、平賀源内を登用、図譜を制作する

   松平頼恭(1711〜1771年)について、写真は平賀源内    


松平頼恭(まつだいらよりたか)は、讃岐高松藩(十二万石)五代藩主で、製塩・製糖などの殖産興業に尽力した高松藩中興の藩主である。号は白山、白銀と称した。熊本藩主細川重賢と並ぶ初期の博物大名の一人でもあり、1760年代後期頃(宝暦年間)には、絵師三木文柳に魚の図譜『衆鱗図』(二帖)、鳥の図譜『衆禽画譜』(二帖)、『衆芳画譜(四帖)』『写生画帖』(三帖)など4種13帖、掲載は2000種におよぶ、美麗で内容も豊かな図譜を描かせた。この図譜の編集を行ったのが平賀源内(1728〜1779年)と言われている。(参考・国立国会図書館解説)


  図譜『衆鱗図』鯛、素晴らしい彩色の図版
また、松平頼恭は参勤交代の時にも動植物を採取するなど根っからの博物学好きであった。殖産興業にも力をそそぎ、平賀源内(写真左)に薬草園の管理を任せ、朝鮮人参の栽培にも着手させるなど、英明な藩主であった。

原本は驚くべきレリーフ(浮き彫り)仕立ての図譜
 『衆鱗図(しゅうりんず)』(または衆鱗図譜)

 
 約430種類ほど掲載、紙を切り抜いた魚やクラゲは他に類のない豪華な図譜である。おそらく平賀源内のアイディアか、単に絵ではなく、実物見本のレプリカを目指したのではないかと荒俣宏氏は推察している。国立国会図書館に収蔵の写本は、元本のように紙で作られたものでないため驚きはない。

松平家の図譜は、収録図の豊富さと描写の精緻さで知られていますが、なかでも「衆鱗図」は、従来の魚類図譜より格段に多い723図を収めるほか、彩色を盛り上げ、鱗に銀箔等を貼り、輪郭線で切り抜くなど、独特の表現技法で驚くほど写実的に描かれています。宝暦12年(1762)には、10代将軍家治の求めで、松平家から魚類図譜「衆鱗手鑑」2帖が献上されますが、これも 松平家図譜の評価の高さを物語る出来事といえるでしょう。(香川県立ミュージアムニュース 2014.Mar.春号)

松平頼恭の元図譜は香川県歴史博物館に保存されており、栗本丹州の魚介譜に数多く転写されており、そこから再々転写されている。元本はレリーフで作られているが、写本は描いてあるためレリーフほどの驚きはない。

『全13帖の図譜を表現技法や装丁、関連史料に基づいて整理すると、魚類・鳥類図譜と植物図譜との間に違いがあり、さらに同種図譜の中でも制作の時期や状況が異なる可能性があることがわかる。その中で、「衆鱗図」は宝暦12年に松平家が将軍に魚類図譜(現存せず)を献上した記録があることなどから、同家の最も重要な図譜であったと考えられる。この「衆鱗図」の特徴は、実物大を意識した精密な描写とともに、表面を盛り上げ、鱗は金銀箔を貼って彩色するなど、対象の立体感や質感を表現するための独特な表現技法の使い方にある。
 
  また、図を輪郭線で切り抜き、バランスよく台紙に貼るほか、博物図譜としては対象に関する文字情報の書き込みが少ないことも特筆される。これは「衆鱗図」が個々の魚の大きさや形、質感などを「目に見えるもの」として緻密に表現することを主な目的として制作されたことを示すもので、文字情報や文脈から離れる分、図は絵画的な質への意識を高めたと考えられる。残る3種の図譜も、細かな差異はあるものの、基本的に同じ方向性の下で制作されたものと解釈することが可能であろう。』(「高松松平家伝来博物図譜の研究」香川県歴史博物館 松岡明子)


絵師・
三木文柳( 1716〜1799年)について……  
  讃岐小豆郡池田の人、画家、絵は宋紫石に学ぶ。(参考・『江戸博物学集成』編集・発行人 下中 弘 平凡社1994年刊)、楠本雪渓とは誰か

高松藩初代御用絵師は、江戸中橋の狩野宗家である中橋狩野家三代目狩野常真に学んだ、生国は上野国、今の群馬県である。御用絵師の図譜制作に参加したであろうが、名前(落款)を記載しないのが普通なのではっきりした事は不明である。


「ウドン海月 ユウレイクラゲ」栗本丹州画、ユウレイクラゲ科     
傘は15センチから30センチほどであるが触手は傘の縁には触手が千本から数百本もあり、種類によっては、数メートルになるものもある。下傘には口があり、写真に見えるような4本の口腕がある。夏の瀬戸内海ヤ冬の相模湾で見られ、ハゲトベ、マエデと呼ばれている。ウマズラハギ漁デ餌として使われる。

「アカクラゲ」栗本丹州画
  傘に放射状の縞模様ガ16本アル。傘は20センチほどである。触手の長さも長く、2メートルにもなる。乾いた刺糸に毒があり鼻に入るとくしゃみをすることから「ハクションクラゲ」との別名がある。また、赤い放射状の模様から「連隊旗クラゲ」とも呼ばれる。
また忍者が、このクラゲを乾燥させ粉末にした物を相手に振りかけるとくしゃみが止まらなくなるため、別名「ハクションクラゲ」とも言われたと伝わる。(『110種のクラゲの不思議な生態 最新 クラゲ図鑑』三宅浩志・Dhugal Lindsay 誠文堂新光社 2013年)

「ハンド海月」栗本丹州画 詳細不明 
この図譜は美術的美しさを追求したようである。

「ヒクラゲ(火海月)」栗本丹州画
瀬戸内海や北九州の海で見られる毒のあるクラゲ、触手の毒が強く刺されると火傷のように痛むことからこの名前が付いた。この絵も含めて栗本丹州は「蛸水月烏賊類図巻」を描いた。