帝国ホテルの設計で有名なフランク・ロイド・ライトと葛飾北斎の摺物


江戸時代の木版画、
摺物とは何か……
 
自費出版による浮世絵版画で、主として狂歌師や狂歌師のグループが浮世絵師に絵を描かせ、狂歌師が自作の狂歌を添えた狂歌摺物、俳諧師など趣味人が自作の発句を添えて新年の挨拶に配る歳旦摺物が代表的なものである。その他に、浄瑠璃、長唄、踊りの会などの名披露目や、役者の襲名披露、改名披露の他、何らかのお祝いなど様々な目的で制作された。(ウィキペディア)

一般的には、摺物(すりもの)とは版木で印刷した一枚物の書画などを指す、木版画の初期よりあり、暦や一色の配り物に使われたが、天明頃に流行し始めた狂歌が、裕福な町民により豪華な多色摺りになり、一挙に豪華になり華やかになった。

文化文政頃の豊かな町民が、歳旦や狂歌の会の記念として自費制作を始めると、見栄を張る豪華な物が造られ始めた。名のある浮世絵師に絵を頼み、腕のある彫師や摺師に「空摺り」や「きめ出し」、「金銀摺り」や「雲母摺り」など、細部には贅を尽くした趣向をこらした。そこに自作の狂歌をのせ仲間に配り自慢したのである。数は何十枚から数百枚である、紙も豪華な厚手の奉書紙などを好みで選び、最初は小さな物(19センチ×21.5センチ)であったようだが、奉書紙の横二つ折りや、狂歌絵本の綴じものにまで造られた。豊かな町民の特注贈答品となった。浮世絵とは違う差別化を目指したようである。摺物は宝暦10年(1760)から天保年間の中頃まで流行した。特に構成力がある葛飾北斎や喜多川歌麿の摺物や狂歌絵本が残されている。

葛飾北斎の狂歌摺物 奉書紙横二つ折り 
東京国立博物館所蔵



フランク・ロイド・ライト(1867〜1959)と日本美術の関わりについて


 帝国ホテルの設計で名高いフランク・ロイド・ライト は日本人に愛され、尊敬された建築設計家の一人である。その理由のひとつとして帝国ホテル完成披露宴の日に起きた関東大震災(1923.09.01)にも、耐震設計・施工をした帝国ホテルは倒壊せず、損害も軽微であったことから有名になった。そのライトであるが、日本美術を愛した事はよく知られ、熱烈なコレクターであったことは知られる。しかし、日本の美術品をアメリカの富豪に仲介したバイヤーでもあったことは知られていない。有名なスポルティング兄弟のコレクションは、フランク・ロイド・ライトが代理人に成り、日本で集められたものである。

 ライトの初来日は、明治38年(1905)、クライアント(建築施工主)のウオード・ウィリッツ夫妻の招待で日本を訪れる。日本美術品の素晴らしさに目覚め、本格的に募集を始める。翌年には早くも持ち帰った広重の浮世絵213点をシカゴ美術館で展示する。1911年には自宅兼仕事場タリアセン建設のため、浮世絵21000枚を売却したと言われる。日本美術通として知られるようになったライトに、アメリカ富豪達の日本美術収集依頼が来る。最近になって浮世絵研究者達に公開された珠玉のウィイリアム・ジョン・スポルディング兄弟の浮世絵コレクションは、彼がスポルディング兄弟の依頼により日本で集めたものである。ライトはコレクション収集手数料を自身の募集費用に充てたようである。

 ライトの日本美術収集は多岐に渡ったが、特に葛飾北斎が好きで、中でも北斎の摺物は徹底的に集めたらしい。個人的な理由やタリアセン維持費用のためコレクションは随時売却されたが、膨大な摺物コレクションは、愛蔵品として最後まで残された。現在、彼のコレクションはフランク・ロイド・ライト財団に納められている。
(参照・『世界的建築家の大いなる遺産 フランク・ロイド・ライトと日本展』財団シーボルト・カウンシル発行 狩野博幸監修 展覧会カタログ)


「小鳥丸の一腰」葛飾北斎 東京国立博物館蔵→
 北斉の反骨精神があらわれた摺物である。武士の魂である刀を百舌に浚われる図柄で、幕府を恐れぬ摺物である。奇想反骨の北斉である。東京国立博物館蔵 
北斉狂歌の摺物 

「鵙翠雀 蛇苺 虎耳草」前北斉為一筆 東京国立博物館蔵
 下の花は虎耳草(ゆきのくさ)と蛇苺(へびいちご)、鳥は「もずすずめ」とあるが よくわからない。東京国立博物館 

喜多川歌麿狂歌絵本『百千鳥狂歌合』  『画本虫撰』


『フランク・ロイド・ライトと日本展』のカタログ

上の写真は1997年1月から始まった『フランク・ロイド・ライトと日本展』のカタログである。ライトは帝国ホテルを設計し、関東大震災でも倒壊をしなかったことで日本では有名な建築家である。彼が日本美術愛好家である事は知られているが、収集している内容はあまり知られていない。仏像や屏風などあらゆる日本美術を集め、アメリカの富豪に仲介するなどが知られているが、特に浮世絵仲介は有名でアメリカに渡った浮世絵で彼の関係しなかったものは無いと言われている。 スポルディング・コレクションは特に有名である。
  驚いたことに葛飾北斎の摺物を熱心集めていた事が判明した。摺物は一般販売と違うため絵師にとっては力量が問われる肉筆画とおなじである。葛飾北斎、喜多川歌麿など一部の絵師に依頼は集中した、特に北斎が独占的に制作したようである。その北斎の膨大な摺物コレクションがライトの所に残されている。最後まで手放すことなく秘蔵したようである。

スポルディング・コレクションについて
  スポルディング・コレクションはスポルディング兄弟が遺言書で公開を禁じた事で有名である。90年間、長らく人の目に触れることはなかったが、日本浮世絵研究者に研究目的での公開が行われた。NHKテレビ(2007年)でその様子が放映された。研究者を驚かせたのは、浮世絵の状態が素晴らしかったことである、特に色の保存状態が良い。長く封印されていたため退色がわずかであり、つゆ草などの淡い色彩が見事に残されていた。初めて着物の模様が確認された。(ボストン美術館・スポルディングコレクション)
小学館より「スポルディング・コレクション名作選」定価13200円(税込)発売日2009.11.10 判型/頁菊倍判/226頁 ISBN9784096820384

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