当時、世界中で日本ほど木版画の
「彫りと摺り」の技術が進んだ国はない


幕末嘉永頃には木版画の彫りや摺の技術は最高潮に達したという。名人級(頭彫彫師)の彫り師は1ミリに3本から4本の髪の毛が彫れたと伝わる。
 
絵は三代歌川豊国の「東海道五十三次の内 川崎駅・白井権八」嘉永5年(1852)である。摺師は「摺大久」印の大海屋久五郎、名人と言われ豊国三代の彫りや歌川国芳の忠臣蔵シリーズ「誠忠義士肖像」などを彫る。また、このシリーズは「役者見立東海道五十三駅」と言い、通称「役者東海道」である。(注)大海屋久五郎は別の資料では大海屋久太郎となっている。拡大表示 


この浮世絵は毛彫りの美しさと技術の高さで良く例としてあげられる。猫の白毛の柔らかさまで表現している。もちろん、細さも細く素晴らしい。この彫りを生かすのが摺師である。いかに髪の毛を潰さずに生かして摺る事が出来るか、摺師の腕が試される。この浮世絵には摺師の印も押されている。
二本のほつれ毛が素晴らしい。拡大表示

画題「東海道五十三駅 日本橋・松魚売」改印・福島和十郎・村松源六、彫師・彫竹(横川竹次郎)、摺り・大海屋久五郎、嘉永5年(1852)3月、配役・坂東三津五郎。 国立国会図書館デジタル化資料。
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嘉永5年の役者見立東海道五十三駅シリーズ55図は彫り・摺りとも素晴らしく衣裳の豪華さや髪の生え際やほつれ毛の表現が楽しめる。彫り師や摺師も一流を揃えた。
空摺りの例が「こもち浮世絵」「シタ賣」のページにあります。同じ画面の浮世絵で、摺師の名前の入った浮世絵とない浮世絵がある。

筆者所有の浮世絵 拡大表示
国立国会図書館デジタル化資料 拡大表示
画題「東海道五十三次の内 平塚 万長娘おこま」 絵師・歌川豊国三代 年代・嘉永5年(1852)3月 名主印・米良太一郎・渡邊庄右衛門 彫師・横川竹二郎・俗称・馬鹿竹(頭彫の名人)版元・伊勢屋喜三郎

空摺りの種類
1.決められた箇所を強調して模様などを出す。
2.衣服などの部分を強調して柄などを出す「きめだし」。
3.浮世絵などを摩擦して艶(ツヤ)を出す「艶摺り」。


摺師『摺大久』の印がある。
 
  国立国会図書館デジタル化資料所蔵の浮世絵には摺師・大海屋久五郎の印がある。同シリーズは嘉永5年2月から遅くとも6月までの短い期間に板行され、55図がでた。最初は3点「日本橋・松魚賣」「品川駅 幡随院長兵衛」「川崎駅 白井権八」である。

 2種類の浮世絵を比べると摺師印のないものは赤色がなく、茶店下の赤色ぼかしがない。明らかに摺りの経年変化ではなく、版(板)が違う。

『藤岡屋日記』によれば、役者見立東海道五十三次の内シリーズは、嘉永5年(1852)2月に板行され、翌年に極上摺りの浮世絵が出たという。また「極上摺り・中摺り・並摺り」の区別があったと言うが、それが最初から区別されて摺られたのか、嘉永6年(1853)になり極上摺りが1枚銀二匁(もんめ)という高価な摺りが単独で出されたか定かでない。


『錦絵の彫と摺』石井研堂著 山下恒夫解説 
芸艸堂(復刻版)平成17年 定価8000円+税


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