職人芸の極致手長・足長異人、人間より人間らしい「生人形見世物」
浮世絵
「浅草奥山生人形」絵・一勇斉国芳(歌川国芳)改印・安政2年(1855)4月 版元・井筒屋 彫り・彫津下庄司 国立国会図書館デジタル化資料
 
  安政2年に浅草寺で観世音の開帳の折に奥山で興行された生人形。制作は熊本生まれの松本喜三郎31才である。国芳は、人形を実際に見て描いたようだ。国芳は見事に生人形の表情・質感を描いている。この年の10月2日に安政大地震が起きた。
 
「当世見立人形の内 粂の仙人」一勇斉国芳(歌川国芳)安政3年(1856)版元・松村彌兵衛 彫り・佐七 国立国会図書館デジタル化資料 
粂仙人は、川で布を洗う洗い女の脛と白い太ももに惑わされ落ちた。これは誰でも知っている中国の故事から題材を取った物だが、他にも「風流人形の内」(一勇斉国芳)などには、古事記などに題材を取ったものが見られる。


生人形について……
 幕末安政期(1854)から明治20年(1887)頃に掛けて「生人形」「活人形」と呼ばれる人形興行が行われた。嘉永5年(1852)、大阪の難波新地で行われた張子細工の役者の似顔絵人形(大江眼龍齋作)が先駆と言われている。生きているかのような人形が、衣裳を着て展示された。その大きな特長は、人形が生きているような「人肌」をしていることである。

  肥後熊本の松本喜三郎が創始者で有り、そこの出身の人形師が多い。大阪で「鎮西八郎島巡り 生人形細工」で大当たりをとり、安政2年(1855)4月より浅草興行「大蔵生人形」となる。当初は不安があった興行であったようであるが、幕末の不安の状況と相まって異国への関心から大当たりとなった。実はこの興行の前に、人形師・竹田縫之助による「八代市川團十郎」生人形の追善興行があったのである。謎の自殺を遂げた八代市川團十郎は、江戸で大人気の歌舞伎役者である。その死は大きな衝撃を呼び、数多くの死絵・摺物・風刺画は、300種を越えたと言われる。それよりも凄い生人形がやってくると噂になり大当たりを取ったようである。(参照「江戸の見世物」川添 裕著)

東京国立博物館には、右下のような生人形の頭部が残されている。生人形師・安本亀八制作を中心とする人形頭部が40体ほど収蔵されている。右の頭部はその一つであるが、髪は本物の人髪であり、肌は白くすべすべしており、本当に生きているようである。拡大写真を見て欲しい。
 『技法は、胡粉(貝殻を焼いてつくった白色粉末。日本画の基本顔料)を溶かしてふさわしい肉色をつけ、それを霧吹のやりかたで巧みに蒔くと、自然な人肌ができるのだという。』(『江戸の見世物』川添 裕著 岩波新書)、

  生人形の胴体は、桐で「提灯胴」と呼ばれる製法で作られ、手・足を付け衣裳を着せたという。

 


この生人形は、題材を実際の事件から取っている。安政三年(1856)
  吉原仮宅の遊女黛が自分の櫛、簪などを質に入れ三十両を作り、安政大地震で被災に遭った人々を救うために、御救小屋に寄付をした。北町奉行所から褒美として銀二枚が下された、そのことが大評判に成り「生人形興行」となり、その様子を描いた浮世絵が何枚か出された。豊国、国貞、国芳が確認されている。
 
  絵中央の半裸の女性が遊女黛で、左の驚く男性が質屋の男である。両国河岸で行われた興行では、別に銭4銭を払うと黛を覗くための遠眼鏡を貸してくれたという。(参照・国立国会図書館月報 2007年4月号「稀本あれこれ 470 「生人形(活人形)の錦絵」川本 勉筆)

「人形之図 内證」絵・応需豊国(歌川豊国)版元不明 安政3年(1856)彫り・彫千之助 国立国会図書館デジタル化資料 拡大表示 

歌川国芳の見立て人形を見る。  (絵・一勇斉国芳 版元・本茂 安政3年)



上 の絵は、両国河岸で「生人形興行」を知らせ歩く行商人である。前の台には、人形の頭部が置かれ、墨一色で摺られた引き札を売り、興行模様をしゃべりながら歩いたようである。(私見)『いろは引き江戸と東京風俗野史』伊藤晴雨著、城北書院 昭和4〜5年刊 国立国会図書館デジタル化資料

右は「徳川時代花見上臈体」三代安本亀八 明治20年 高さ・32.1センチ 東京国立博物館蔵 拡大表示

上の「為朝島廻り」は、大阪で大当たりをとり、江戸浅草奥山で興行された錦絵である。普通、見世物興行では、『興行開始のひと月半から半月ほど前までに、まず墨一色摺の絵入り引札(報条)が通常は一点出版され、市中で売られる。』(前述「江戸の見世物」)、それと同時に当たりそうな興行には多色摺りの錦絵が出版され、江戸の街角で売られ前人気を煽った。

「為朝島廻り」絵・一勇斉国芳(歌川国芳)安政3年(1856)版元・山口屋籐兵衛 大英博物館所蔵 拡大表示   

「風流人形」絵・一勇斉国芳(歌川国芳)安政3年(1856)版元・本吉 大英博物館所蔵 拡大表示
東京国立博物館所蔵の画像が見られます。
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