絵巻の内容は、大江匡房(おおえまさふさ・1041〜1111)の『江談妙(こうだんしょう)』(巻第三)に収められている。
内容は「吉備入唐間事」物語と一致しており、遣唐使の吉備真備が在唐中に楼門に幽閉され、鬼となった阿倍仲麻呂に導かれて、皇帝による『文選』や囲碁による無理難題を解いて、遂に帰国を達成するというものである。但し、現存の絵巻は冒頭の真備が入唐して幽閉される詞書および、後半部分である「野馬台詩」の解読に成功して帰国を果たす場面は欠いている。
絵は後白河院時代の宮廷画家 常盤源二光長、絵詞は吉田兼好と伝わるが根拠は希薄である。
平安時代には蓮華王院が所蔵していたと考えられるが、1441年頃、若狭国松永庄新八幡宮に秘蔵された。その後、所有者が流転するが江戸時代末には小浜藩酒井家の所有となる。大正十二年までは酒井家に伝えられていたが、昭和七年(1932)来日したボストン美術館東洋部長の富田幸次郎が購入する。不正の取引では無く、正当な取引であったが報道では国宝級美術品の海外流失と話題になり、これを機に流出の翌年4月1日「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」が公布・施行され、美術品の国外流出を防ぐ処置が取られるようになった。
ボストン美術館所蔵
吉備大納言入唐絵巻
平安時代 十二世紀
紙本着色 第一巻 32.0×673.5センチ
第二巻 32.0×458.7センチ
第三巻 32.0×721.8センチ
第四巻 32.0×598.1センチ
長尺のため、保存を考えて四巻に改装された。
(参照・『ボストン美術館所蔵 日本絵画名品展』東京国立博物館・京都国立博物館編 日本テレビ放送網(株)発行