歌川国芳の出世作、通俗水滸伝豪傑百八人之壱人シリーズ  刺青の流行

「通俗水滸伝豪傑百八人之壱人
 浪裡白跳張順」一勇斉国芳 
版元・加賀屋吉兵衛 文政年間
(1818〜1803)東京国立博物館蔵 
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江戸時代、安定期の文政10年(1827)より板行された歌川国芳の『通俗水滸伝豪傑百八人之壱人』は、最初の5点、智多星呉用、九紋龍史進、行者武松、黒旋風李逵、花和尚魯智深が出ると、全身に施された刺青の強烈な文様と躍動する肉体は大評判になり、国芳は一躍人気浮世絵師となった。中国の明本では3人しか刺青の豪傑がいなかったのに、国芳は13人に全身刺青を入れた。
  明和(1764)・安永(1772)頃の江戸では、侠客の中に力を誇示するために部分的に刺青を入る事が起こった。ところが、国芳の「水滸伝豪傑百八人壱人」以後、全身に大きく入れる刺青が流行りだした。

中国ブームが起こり、中国4大奇書のひとつ『水滸伝』が紹介された、これは北宋の徽宗皇帝時代、山東地方の梁山泊に集まった108人の豪傑が大活躍する伝奇物語である。講談や寄席で『通俗忠義水滸伝』が演じられ、葛飾北斎も水滸伝を描いたが、国芳の前身刺青が爆発的な人気を得た。
 『江戸では、「男伊達」「きおい」「勇み肌」と言った美意識が発達していたが、『水滸伝』の豪傑はそれを具現するものであり、さらに刺青はそれを象徴するものとなった。』、『国芳原画の「水滸伝」の刺青は、とくに文化年間(1804ー18)に、侠客、博徒、鳶の者、町火消し、力持ち(大石や俵を持ち上げてみせる大道芸人)、飛脚、駕籠かき、雲助、などの間に大流行した』(『刺青とヌードの美術史 江戸から近代へ』宮下規久朗著 NHKBOOKS 日本放送出版協会 2008年

幕府は文化八年(1811)と天保13年(1842)に刺青を彫ることを禁止したが、すぐに復活してしまった。 上記の裸になる職人達が好んで裸になり、刺青を誇示し威嚇したからである。




東京国立博物館蔵・http://www.tnm.jp/

 月岡芳年の浪裡白跳張順黒
旋風 李遙江中戦
 


「浪裡白跳張順黒旋風李遙江中戦」月岡芳年 版元不詳 明治20年(1887)
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左は国芳の門弟月岡芳年の「水滸伝豪傑百八人壱人」であり、水中での格闘シーンである、しかし国芳画がおどろおどろしい雰囲気の劇画的であるのに、芳年は計算された完璧な構図であり試合のようである。どちらも素晴らしいが、あとは好き嫌いの好みであろう。国芳は肉体の内側より溢れる躍動感がある、まさしく現代の劇画であり、今から見ても驚くべき動画(アニメーション)の切り取りである。

作家・橋本 治氏は、1992年5月号『芸術新潮』の特集記事『國吉の表情』で次のように述べている。

  『この幅の広さは浮世絵師ー江戸の職人だったら当然である』といとも簡単に江戸職人の質の高さを述べている。また『こういう題材だったら、こういう描き方もできるよと、実に様々にアプローチを変えていく。そこには、確かに国芳の冒険心があった。だがやはり、その変化の自在さとは、一つの完全に確定されてしまった「技術」を持った人ー職人ゆえの幅の広さというものだろう。』、私にもストンと納得できた。月岡芳年について、明治維新を迎え、旧弊を乗り越えた新しい浮世絵師を要求された、職人の悲劇を語っている。

 
初期頃に発売された国芳出世作、通俗三國志英雄之壱人



「頼豪阿闍梨・大江匡房郷」絵・一勇斉国芳(歌川国芳)名主印 普勝伊兵衛 天保14年から弘化4年(1843〜1847)版元・吉見屋国吉 国立国会図書館デジタル化資料 拡大表示


「通俗三國志英雄之壱人」絵・朝櫻楼国芳(歌川国芳)文政年間 版元・上金 上州屋金蔵 彫り・岡本栄次郎 国立国会図書館デジタル化資料

 
《信玄と謙信の激突、川中島の戦いは国芳が描くとこうなる》

「武田 上杉 川中嶋大合戦の図」絵・一勇斉国芳(歌川国芳)名主印・渡邊庄右衛門天保14年から弘化4年(1843〜1847)版元・今井屋宗衛門 国立国会図書館デジタル化資料

有名な川中島の戦いである。史実では、4回か5回戦われたらしいが、絵に描かれるのは、千曲川と犀川が合流する三角州の第四次合戦の様子である。永禄4年(1561)のこの戦いは、八幡原の戦いとも言われ、双方に多くの死傷者出した大規模な戦いで、上杉謙信が武田信玄に、馬上から斬りかかった大将同士の戦いは、後年の創作であろう。双方に数千の死傷者出した戦いは、前半上杉軍の勝利、後半は武田軍の勝利と言われている。
浮世絵にも題材として取り上げられ、歌川派の絵師に多い、広重も描いている武者絵の代表絵である。


躍動感溢れる戦いの絵は、やっぱり国芳が面白い 「源平八幡大合戦」


「源平八嶋大合戦」絵・一勇斉国芳(歌川国芳)名主単印・天保年間 版元・川口屋卯兵衛
 国立国会図書館デジタル化資料

国芳は、やっぱり武者絵が好きらしい。上の源平合戦も生き生きと描いている。構図も左右からぶつかり合い、戦う武士達は躍動感溢れる戦いをしている。悲惨さより、何かユーモアさえ感じる大判錦絵である。3枚揃いの中央には義経が、源氏(笹竜胆の紋)の舟から右の大船に飛び移るところである。大船では、弁慶が囲まれて大勢の敵と戦っている。

   国芳を知る本  
 

『国芳の武者絵』稲垣進一・悳俊彦著 東京書籍(株)2013年刊 他では見られない国芳武者絵のオンパレード。

『浮世絵を読む・国芳 6』浅野秀剛・吉田伸之共著 朝日新聞 
1997年刊

 

『もっと知りたい 歌川国芳 生涯と作品』悳俊彦著 (株)東京美術 2008年刊

 

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